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2020年6月

 〇 「民」という字について、辞書では「片目を針で刺された奴隷や被支配民族の形」と説明されています(大漢語林)が、想い起こされるのは、スキタイの習俗で、ヘロドトスによると、スキタイは他民族等を殺戮した後に、捕捉した人々の両目を刀で突き刺して奴隷とし、労働に従事させていたということですから、これが歴史的ルーツと思われます。

 より古いシュメールの古拙文字には、耳と目と口を蔽われた人の頭の絵文字がありますが、それは「秘密」を表すもので、目を突き刺された人頭の絵文字はないようです。当然にもシュメールは、戦いで得た捕虜を奴隷として、インドとの交易に利用して富を得ていましたから、目をつぶすことなどはしなかったはずです。

 このように、歴史を少しひもとけば、文字やことばの、今は忘れ去られてしまった本質が、突然、ヌッと姿を現します。民とは、刀で目をつぶされた奴隷のこと。「民度」にひそむ空恐ろしい響きの根源です。

 そして今、民の目が直面するのは刀の痛みではなく、心地よいが実はありもしない幻影で蔽い隠された虚の時代の厄災です。新種のモダンな奴隷の境涯になり果てないための武器は、誰もが知っている簡単な「あのこと」。嘘を看破り、真実を見抜く涼やかな目を持つことです。私はそう考えます。

 

                                    2020  6/10