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2020年10月

〇  TVドラマのミステリー部門に限っていえば、「警察署長ジェッシィ・ストーン」(米)、「孤高の警部ジョージ・ジェントリー」(英)、「刑事フォイル」(英)などが、今のところマイドラマのベストスリーといえるもので、他にも「シャーロック」(英)、「フロスト」(英)なども捨てがたい味があり、また犬の演技でホッとさせる「レックス」(オーストリア)の、米映画「ハリーとトント」の最後のシーンを模したかのような、波打ち際での死のシーンや、「バーナビー」(英)の「森の聖者」のラスト・シーンは何度も繰り返し見たい例といえます。

 脚本も、情景も、演者の演技も上質なそれらの中(素朴な「レックス」は別として)で、特にジェッシィ・ストーンなどに見入ってしまうのは、思い通りに行かない人生の苦しみに打ちひしがれながらも、辛うじて踏みとどまり、真正面から己と向き合おうとするために、さらに懊悩する、そうした人間の「立ち向かう」姿と、そこからにじみ出てくる人間らしい良心の震えとでもいうようなものが、観る者の心を揺さぶるからでしょう。

 ジェッシィが保護し、自宅に引き取るのも、ある残酷な殺人事件の被害者に飼われ、その死の現場に臨在していた犬で、一人と一匹は、互いの心の傷のせいか、打ち解けることにも無器用なまま、いつしか心の奥底で理解し合って行く、その無言の時の描写が切なく、さらにまた、そのアイリッシュ・レトリーバーの何ともいえない廃れた表情が、その作品の本質を見事に表象しているように思われます。黙した演技のもつ圧倒的な迫力とでもいうようなもの。ーこの作品が、他に類をみないのは、その点にあるのかもしれません。

付:ラビ(猫)とのささやかな会話

L  ラビさん、ジェッシィは「政治家」などにも無言で立ち向かっていくね。

ラビ 当然ニャー。

L 「国民のため」と言う人がいるけど、その「国民」の中に、自分はおにぎり一つで、幼い娘に

   一個数円の卵を食べさせるために必死で働くシングルマザーなど含まれているかしら?

ラビ うーん、雑なザル概念はゴマカシがきくからニャ。能天気な人は、自分のことと勘違いし

   てんじゃない。前をそのまま引き継ぐといっているんだから、1%の金持ちしか頭にないニャ。

L  「自助」も民間企業が奮闘するべきという意味だと人材派遣の経済学者が説明していたが、

   それなら「自」とは大中小の資本家のことで、内部留保さえ分配されない者、非正規の失業者

   予備軍、失業者、子供、老人など、その他の多くの「民」は含まれないことになり、自己責

   任論より悪いかもね。そうした人たちは「共助」って、エーッ!老々介護に、認々介護か!

   それって、共倒れのことじゃない。

ラビ 僕の大好きな学問の自由にまで手を出し始めたニャ。

L  時代錯誤の権謀術数論に心酔すると公言する少し恥ずかしい人は、民主主義も、人間の自由

   の本質も、いやそれ以前の古い格言「良薬は口に苦し」ということさえ知らないのかもしれ

   ないわね。

ラビ 早晩、その真意は、ほころびの中から顔を現わしてくるニャン。

 

                            2020   10/4