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2022年10月

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 風もないのに、木の葉が踊っている・・・。変だなと思い、よく目を凝らすと、モズ君が、ハナミズキの赤い実を狂ったようについばんでおりました。それは10月の半ば頃のことでしたが、やがて、地面に落ちた実も、草陰に逃げ込んだ実もきれいに食べ尽くして、モズ君が姿を消すと同時に、青々としていた葉が朱に染まり始めました。一枚一枚が朱と緑の美しい濃淡模様を織りなし、競い合いながら風にそよいでいる様は、まるで音楽そのもののように思われるのが不思議です。楽しい子犬のワルツならぬ、楽しい木の葉のワルツ、あるいはトッカータとフーガか。ハナミズキの下の満天星も、小さな葉先がポツポツと少し暗い紅に変じ始めておりますから、早晩、紅蓮の炎の立つ庭となるに違いありません。

 小さな庭でさえ、十分すぎるほど紅葉の喜びを与えてくれるものですから、人ごみの中を野山に出かける気には、到底なりません。紅葉狩りという風情のある言葉は、人も数少なく、自然が圧倒的だった時代特有のもので、紅葉を人がおおいつくし、煙にまみれて物を食らう、不気味な「祭り」とでも言えそうな哀れな時代には、死語と化していると言っても遠からずと思われます。好き好きではありましょうが。

 思い返せば、子供の頃から私は、祭りは嫌いではないが、その只中にいると空々しい寂寥感を覚え、一人静かに祭りの群れから立ち去るのが常でした。遠くで聞こえる祭囃子を背に振り返ると、そこにあるのは、町並みだけが同じの、人っ子一人いない、しんと静まり返った別の町でした。家々や街灯の灯りによってかえって黒々と、ただ存在するしかない、妖しの町。恐いような面白いような、何かに期待するような、奇妙な感覚に襲われながら辿り着くのは、何事も変わりないごく日常のわが家で、なあんだと少々がっかりしながらも、ホッと一息をつくー。

 祭りの賑やかさよりも、あの黒々とした、ハッと息を呑むような世界の突出感の方が私にはずっと楽しいものでした。以来、私は、祭りの時は「遥か群衆を離れて」いることにしています。

                            2022 10/31