Top » 2022年5月

2022年5月

  無自覚な永遠の運行の中にあった眠れる宇宙が、人間を生み出した時、宇宙は人間の大脳を媒介にして、はじめて自己と対面し、自己の姿をまじまじと見つめ、自覚する段階へと飛躍した。ー 梯(かけはし)明秀さんの書の中に、こうした、いわば、宇宙社会観的なイデアを見出した時、哲学者にも天文学者にもなりたいと思っていた私は、何て面白い、愉快な発想なんだろうと、少々感動したものです。

 私の書棚に梯さんの本を見つけた父が、目を輝かせながらも、なぜか潤ませて「ていめいしゅう は」と、知人であった昔のことを語りかけてきたのは、そのような時でした。父は、人の名を必ず音読みする人で、以来幾度となく「ていめいしゅう は」を繰り返す中で、梯さんのご子息が鉄道自殺で亡くなられたこと、そのご子息のバラバラになった遺体をご覧になって、梯さんの心が砕け散ってしまったことを大粒の涙を流しながら私に語ってくれました。

 人間の大脳を媒介として、「自己認識段階に到った宇宙」にとって、今の人間はどう映っているのでしょうか。確かに、科学技術は類をみない進歩をとげて、一気に地球上を焼け野原にしてしまうほどの強力な道具さえ作り出してしまった人間は、相も変わらず大小の侵略戦争を繰り返して止むことがありません。最高水準の科学技術力をもって、人間は人間を最も効率的に殺し続けている。宇宙は、このような愚かな人間存在を生み出したことを、恥じ、苦悶の叫びをあげ、身悶えしているかもしれない。そんなことがふと思われる、この星の不幸な状況に、言葉を失いそうになってしまう昨今です。

                    

                                                                                     2022 5/29