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2023年1月(2)

  忘れもしません。2019年の正月2日の早朝に、めずらしく外を歩いていた時のことです。

東の空に、えも言われぬ美しい光景が広がっていました。細い月が、キラリと光る星のイヤリングを付けていたのです。朝ぼらけのバラ色と、水のようなブルーが寄り添う空に見守られながら。何かトキメクことがありそうな、希望の年の幕開けを告げる予兆かと思われるものでした。その光景が忘れられず、翌年も翌々年も同じ時刻に空を見上げましたが、残念なことに少しずつ西に移る月と星は、色もデザインも崩れ色あせてゆきました。まるでパンデミックを憂うかのように。そして、戦争がやってきました。

 人が人を殺し続ける愚かな世界を前にして思われるのは、唯一の戦争による被爆国である日本という国が、非戦を誓う平和国家だったはずだということです。それによって世界中から尊敬される良心的な国家のはずなのに。良心的であることは、さほど難しいことではありません。今から1300年ほど昔の古代に生きた、大政治家で平和外交の鬼でもあった藤原不比等が、大唐を相手にできたことですから。にもかかわらず、60年?ミサイルにミサイルで対抗?それは単なる殺戮、殺し合い。たった今、目の当たりにしている光景の無限回路のその果てに、国や世界が平和に存続できるとでも思っているとしたら「あわれ、月は狂っている」※ーあまりに貧相な発想、背筋の凍るような、そんな世界には、もはや子孫など存在しないでしょう。そして今、主張しいる人も明日は退き、やがて土中の人ですから、子孫に責任を負うと気色ばんでみても、「想定外」の結末についての責任を問われることも、負うこともない。実際には責任など負わない人々が、そのストーリーでは存在しえない「子孫」を人質に、臆面もなくお為ごかしを。

妄想は死に至る病です。

 

※ガルシア・ロルカ「月よ 月よのロマンセ」

                           2023 1/22