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2023年9月

  久しぶりに、ギリヤーク尼ケ崎さんの、大道で踊る姿を映像で拝見しました。93歳。すでに自由な動きを封じられた身体を路上に投げ出し、吠え回っていらした。身体が圧迫されればされるほど、心は熱狂的に踊るもの。その例を、足が悪く、禿頭でビヤ樽体形の老爺、フラメンコの巨匠エンリケ・エル コッホの身体の束縛などものともしない没我のバイレ(踊り)や、詩人中原中也の幻の石の蝶、長谷川泰子さんの、老いてステージ端の椅子に腰をかけたまま、ただパリージョ(カスタネット)を奏しながらゆっくりと両手で円形を描く姿などに観てきました。形のない踊りの豊かさに震えながら。老い?ーそれでこそ ようやく踊り切る時がきたのです。

 ギリヤークさんとは2回共演させていただきました。どちらも小さい小屋でしたが、奇声と共に小屋を飛び出し、そこら中を走り回り、忘れずに戻っていらっしゃる。まだ駆け出しの私の支えは、熱情と狂気だけでした。間を置かず次のバイレの着替えをステージから引っ込みながらやらなければならず、ライトダウンを待っていられなかった私の背中の生白さに、うなづく方もいれば、否定的な方もいましたが、それはそれぞれの生き方、感じ方。見たくなければうつむけばいいでしょう。こちらはとっくに次のバイレの世界に踏み込んでいたのですから・・・。

 今は、なつかしい光景です。

 

※明から暗へと曲が、間を置かず変わる構成の中、楽屋、舞台裏に戻る暇のない踊り手の着替えの動きを、薄明りの中で、その背中に集約させた演出の勝利であったと、今でも私は考えています。さらに、未生の者の持つ、時分の花、狂気じみた熱量への信頼かとも。

 

                        2023 9/21